まずい、落ちる。けどせめてお客様だけは守らなくちゃ。
自分は怪我をしてもいい。けど、せめて彼女だけは傷つけてしまわないように。
そう思うと自然と私は彼女を庇うように抱きしめていて、床に体をぶつけるのを覚悟してぎゅっと目をつむった。
ところが、体をぶつけるより先に感じたのは抱きしめられる感触。それがなんなのか確かめるより先に、ドタタタッ……と体は階段の下へ落ちていった。
「きゃっ……大丈夫!?」
松さんの悲鳴のような声に、バタバタと駆けつける足音が聞こえる。
あれ、でも……痛く、ない?
不思議に思いながらそっと目を開けば、そこには、私を受け止めるように抱きしめる仁科さんの姿。
「に、しな……さん?」
私が彼女を庇ったように、彼は私を庇ってくれたのだろう。下敷きになってしまった彼は、痛みにほんの少し顔を歪めながらも小さな声で耳もとで呟く。
「俺のことよりお客様を」
「あっ!はい!」
そうだ!お客様!
そういえばと腕の中の彼女のことをハッと思い出し、声をかけた。