無理に勧めることはもちろん、お客様自身が妥協をして買って後悔してしまうのも避けたい。

折角なら沢山見て選んで悩んだ末に、気に入ったものを選んでもらいたい。



そんな気持ちから一度ふたりでじっくり考えることを勧めると、女性は納得したように頷いた。

そしてカタログを数冊まとめて紙袋に入れると、「出口までお持ちいたします」の言葉とともに一階の出入り口へ向かうべく私はお客様と階段を降りていく。



「すみません、長い時間付き合ってもらったのに」

「とんでもないです。またいつでもいらしてくださいね」



女性とそう笑いながら階段を降りていると、ちょうど階段を登ってきた仁科さんは端に避け、笑顔で私たちを見送った。

その時、彼女の足は階段を踏み外し、体はガクンと落ちかけてしまう。



「きゃっ……」

「危ないっ!!」



そう声が出ると同時に、咄嗟に紙袋を放り投げ、伸ばした手で女性の腕を掴む。

けれど彼女の全体重にそのまま踏ん張ることは出来ず、私と彼女はともに宙に浮いた。