「うーん、どうしよう……デザインも使い心地も迷っちゃって決められない」

「別に今日決めなくてもいいじゃん。ゆっくり決めればいいよ」



眉を下げる奥さんに、それをフォローする旦那さん。仲睦まじいふたりの左手薬指には、まだ真新しい指輪が輝いている。

聞けば挙式も来月に控えているのだそうで、ふたりの雰囲気から幸せなのが伝わってくる。



新婚さん、かぁ……いいなぁ、羨ましい。

いつか私もああやって、誰かと新居のためのベッドを選びに……いや、ダメだ。全く想像がつかない。



考えようとして、けれど想像すらも上手くできない自分にがっかりする。

その度に思うのは、『結婚なんて興味がない』と言っている自分は、そんな夢を見ることすら出来ないだけなのだということ。



……なんて、こんなこと考えていたらまた仁科さんに『そういうところがまた』と叱られてしまいそうだ。

淡々と叱る、愛想など一切ない彼の顔を思い浮かべ、気を取り直しお客様へ声をかける。



「お客様、旦那様のおっしゃる通りですよ。ベッドは長く使うものですし、妥協や無理をせずお時間をかけてお選びください」

「そっか……そうですよね。じゃあ今日は一旦考えて、また日を改めて来ます」

「はい、お待ちしております。あっ、よろしければ本日お勧めさせていただきましたベッドのカタログなどございますので、そちらもご参考までにお持ちください」