「……仁科さんって、意外と紳士的ですね」
「そうか?」
彼自身は無意識なのだろう。なんてことないように電車に揺られる。
けどその自然な優しさが、あの日もさっきも、私を救ってくれている。
照らしてくれるようなあたたかさを思い出し、私はつり革に掴まったまま小さく頭を下げた。
「あの……さっき、庇ってくれてありがとうございました。……助かりました」
「……いや、いい。けど分かった、お前の中身をそうさせているのは周りだな」
「え?」
周、り……?
意味を問うように彼の目を見ると、黒い瞳はじっとこちらを見つめる。
「お前は周りの目や言動から自分を守ってた。諦めたフリで作り笑いをするうちに、それはどんどんと殻になった。……お前だけのせいじゃ、なかったんだな」
『女らしくない』と、笑う周囲。
それらの目から自分を守るように笑って、けど心の底では笑えていなくて。
この心は、彼の言う『コンプレックスの塊』になっていった。
今まで誰にも気づかれることなどなく、初めて知られた心の中。
守ってきたそれらに触れられると、なんだか恥ずかしくて、情けなくて、嬉しくて、込み上げる感情を隠すように俯く。