「千川ー、開店時間だ。店頭立って」

「あっ、はい」



コートを脱ぎ、支度を終えたところで先輩である上坂さんに呼ばれ、私は小走りでスタッフルームを出る。



その時何気なく視界に入ったのは、スタッフルームの壁際に並んだ、スタッフ8人分の縦長いロッカー。

けれど一番右端の1つは空いたままだ。



「そういえば馬場店長、今日から九州の店舗ですよね」

「あぁ。馬場店長もかわいそうだよなぁ。九州店の店長がいきなり辞めたから、その穴埋めに転勤って……」



オシャレな顎髭を生やした上坂さんは、私よりほんの少し高い位置にある茶色い髪をかきながら、同情するような苦笑いを見せた。



そう、現在うちのお店には店長がいない。

というのも以前までの店長・馬場店長に突如辞令が出て、昨年末を持って九州店へ転勤になってしまったからだ。



話では今日から、新しい店長が来るそうだけど……ロッカーを見ても、来ている様子はない。