「あっ、じゃあ私やります」
それはこの場、というか仁科さんの視線から逃げたいがための挙手。
「ひとりじゃ大変だろ。俺も手伝う」
「だ、大丈夫です。ひとりでできますから」
そのため、手伝ってくれようとする仁科さんに私は慌てて断ると、「だが」と続く言葉も無視して上坂さんの元へ駆け寄る。
「悪いな千川、これ移動する商品の品番」
移動する商品の品番が書かれたメモ用紙を上坂さんから受け取ると、そのまま急ぎ足で1階奥へ降りて行った。
仁科さんが初めてこのお店にやって来た日。あの言葉を言われて以来、私は仁科さんが苦手だ。
笑って流すこともいつも通りなのに、その度彼の視線がなにかを言いたげで、またなにか言われるんじゃないかとヒヤヒヤする。
だからこそ、出来ればあまり彼と同じ空間にはいたくないし、ふたりになどなりたくない。
3日目でこれって……きっとこの先長い付き合いになるのに、私やっていけるのかな。
「えっと、マットレスの品番はMLK30027……あった」
メモを見ながら1階奥のフロアを見渡し、該当する商品を見つけた。シングルサイズのやや高級な白いマットレス。
ところがサイズにしては結構重みのあるそのマットレスに、台車に乗せるのもひと苦労だ。
「ふぅっ」と踏ん張りながら乗せると、一度バックヤードにある倉庫へ運んでいく。