「えー?女の子みたいに髪の毛伸ばしたら千川さんじゃないじゃないですかぁ」



彼女が「ね」と同意を求めるように上目遣いで視線を送ると、先ほど前のめりに転んだ藤井さんは、立ち上がりながら笑って頷く。



「そうだよなぁ、千川がロングとかイメージなさすぎ。つーかオカマっぽい」



梅田さんはともかく、藤井さんは悪意なく思ったことを言っただけなのだろう。

そのひと言がチクリと胸に引っかかるけれど、私はへらっと笑みを作ってみせた。



「あはは、そうですよね」



けれど、その時こちらを見る仁科さんと目が合う。

笑うわけでも怒るわけでもない。黙ってこちらを見るメガネの奥の冷たい視線は、先日の彼のひと言をまた言っている気がした。



『俺にはお前が、受け入れて諦めたフリをしてばかりの、コンプレックスの塊に見える』



それをまた言葉に表されるのが嫌で、わざとらしいと分かっていながらも、視線を思い切りそらす。

するとそのタイミングで、1階で他の仕事をしていた上坂さんが姿を現した。



「あ、仁科さん。すみません、誰かふたりくらい借りてもいいですか?」

「構わないが、どうかしたか?」

「今横浜店からマットレスをひとつ移動してほしいって連絡があったので。その出荷準備を頼みたくて」



大きなマットレスの出荷準備、ということで私と藤井さんあたりに頼みたいのだろう。こちらに視線を向けながら言う上坂さんに、私はすすんで手を挙げる。