「お辞儀が浅い」



ある日の午後。

その言葉とともに、仁科さんは私の頭を資料で軽く叩き、浅すぎず深すぎず微妙な角度でお辞儀をさせた。

そんな私の横では、藤井さんや松さん、梅田さん、と皆も同様に礼をして微妙な角度をキープしている。



「お客様を迎える際のお辞儀は30度、組む手は左手が上、猫背にならないように気をつけろ」



仁科さんが来て、3日。

店舗2階のフロア端で、お客様が途切れた合間を使って、今日も彼は冷たい目と容赦のない態度で、知識やマナーを叩き込む。



「つらいだろうが角度を体に叩き込め。そのまま商品知識についての復習いくぞ」



こ、このまま!?

背筋を伸ばし、肩が内側に入らないよう意識しながら、30度という角度のまま……つらい。

全員背中をプルプルと震わせながら、仁科さんからの商品に関する問題に答えていく。



「当社主力マットレスの特徴を答えろ。じゃあまず松」

「は、はい。独自開発の連続スプリングは複雑な線形を編み込み、バランスと通気性に優れています」

「多少端折ってるが、まぁよしとしよう。次、他社にない大きな特徴のひとつとしている……」