「今朝は大丈夫だったか?」

「え?」

「電車」



電車……?

そこから思い出すのは、昨夜の電車での彼との出来事。



ということはつまり、昨夜助けた相手が私だって気付いていた……?

自分ひとりだけが覚えていたわけじゃなかった。そう思うと心は少し嬉しいと感じる。



「あっ……はい!昨日はありがとうございました」



次会えたら言おう、そう決めていた『ありがとう』の言葉を口にしながら頭を下げる。

それに対して彼は特に誇らしげな態度をするでもなく、「そうか」と短い返事をした。



そっか、覚えていてくれた……というか、私だって気づいてくれたんだ。

一度はがっかりしていただけに、その言葉がいっそう嬉しい。

頬が緩むのをこらえながらカゴの中の雑巾を取り出す私に、その目はなにか言いたげに留められる。



「……千川、もうひとつ聞きたいんだが」

「はい?」

「こういうのは、お前の仕事なのか?」



先ほどの梅田さんとのやりとりも見ていた彼が『こういう』と指すのは、つまり、高いところの仕事、という意味なのだろう。