寒さ厳しい、1月の初め。

「はぁ」と真っ白な息を吐き出し、正月休み明けの新宿の街を歩いた。



黒い細身のズボンに、ベージュのコートをなびかせ、深緑色のマフラーで短い毛先からのぞくうなじを隠す。

そんな私の視界は、ほかの女性と比べて今日も当たり前に高い。



新宿の端にある、2階建ての白い外観の建物の前で足を止めた。

見上げれば、正面入り口である大きな自動ドアの上には『IN SHEEP Co.,Ltd.』の看板が今日も朝陽に照らされ輝いている。



「おはようございます」



建物の裏口から、そう声をかけて入れば、ベッドやインテリアが並ぶ開店前の店内で、ひとりの先輩男性社員が開店準備をしていた。

スーツ姿の彼・藤井さんは、自分より少し高い背丈の私を見て「おぉ」と返事をする。



「千川おはよー……って、あれ?お前正月休みの間に背伸びた?」

「伸びてませんよ」



苦笑いで答えると、その反応を待っていたかのように笑った。

そんなやりとりをしていると、後からやってきた後輩男性社員は私を見て笑う。



「おはようございまーす……あれ、千川さん背伸びました?」



言われたのは、つい今さっきと同じこと。

休み明けの鉄板ネタ、とでもいうかのようなその会話に、藤井さんはいっそうおかしそうにゲラゲラと笑った。