人に見せられずにいた弱さも
心に重くのしかかっていたコンプレックスも
しまい込んでいた恋心も
あなたが触れてくれたから、向き合うことができた。
その心が彼女への後悔から始まったものだったとしても、それでも、その目が今こうして私を見つめてくれている。
抱きしめ、愛を、伝えてくれている。
それらの幸せを、抱きしめて。
「……千川の答えは?」
「えっ」
耳元で問いかけるように囁く声に、言葉に出すのは恥ずかしくて、頬を赤くして詰まらせる。
けれど、私が言うまで待っているつもりなのだろう。頭上で彼がイタズラに笑っているだろう姿が簡単に想像つく。
意地悪い……。
けどそんなところも愛しくて、顔を上げて、その目を見つめ口をひらいた。
「私も、仁科さんのことが好きです」
『好き』、その言葉に彼はふっと優しく笑うと、再びキスをした。
しっかりと抱きしめ合い、キスを交わす。
この瞬間もまだ辺りは暗いままだけど、不思議と怖くは感じなかった。
そう、彼となら。もうなにも怖くない。
幼い頃、女の子は誰だってお姫様になれると信じていた。
フワフワのドレスに、キラキラのティアラが似合うような、かわいいかわいいお姫様になれるって。
けれど、そんなことは所詮夢。
現実では誰しもがなれるわけじゃない。
だけど、愛しい人のそばにいられるのなら、それ以上の幸せはない。
誰かを愛せることで、自分を愛してあげることができる。
彼のおかげで知ることが出来たのだった。
あなたとなら、きっと世界は明るい。
end.