それは、それ以上の言葉を遮るかのようなキス。

重ねられた唇に、驚き戸惑い、一瞬体は逃げようとしてしまうけれど、そのまま抱きしめる腕に次第に身を委ねてしまう。



隙間なく体を密着させると、彼の服の水分が私の服ににじんで、ひんやりとした冷たさを感じた。



窓の外に雨風の音が聞こえる中、言葉ないままそっと唇を離す。

自然とそのまま見つめ合うと、熱を帯びたその目には、涙でぐしゃぐしゃな自分の顔が映り込んだ。



仁科さんは左腕で私を抱きしめたまま、右手でそっと私の涙を拭う。

肌に触れた指先はとても冷たくて、その体温の低さに肌はビク、と反応する。



「……正直な気持ちを、聞いてくれるか」



彼がしぼりだしたひと言に、小さく頷いた。



仁科さんの、正直な気持ち。

怖いけど、知りたい。

先ほどまで逃げてばかりだったのに、抱きしめる腕が、触れた唇が、向き合う勇気をくれる。



「……正直に言えば、杉本のことはずっと後悔していたし、最初は千川を彼女に重ねていた」



……やっぱり。

重ねて、いたんだ。

直接告げられた事実に、沈みかけた心を引き止めるように彼は「だが」と言葉を続けた。