「に、しな……さん?」
どうして、彼がここに……?
「なんで……私、電話してないのに」
「雷も暗いのも苦手だと言っていただろう。だからひとりで泣いてるかもしれないと思って来てみたら、正解だったな」
言いながら、濡れてはりつくシャツのボタンをひとつ外し、ネクタイを緩める。
あんな些細な会話のなかのひとつを、きちんと覚えてくれていた。
そのために、雨風の中、急いで駆けつけてくれた。
なにも言わなくても、彼は、いつだってこの心を読み解くように。
嬉しい。
嬉しくて、幸せで、余計涙が溢れてしまう。
でも、だけど、それでも。
「……私は、大丈夫です。杉本さんとは違う、だから、重ねているんだとしたら……」
重ねているのだとしたら、やめて。
そう拒むように言いかけた、その時。距離を縮めるように彼は近づく。
そして私の腕を掴み体を引き寄せると、そのままキスをした。