『仁科くん、杉本さんのことはあなただけのせいじゃないよ。だから、そんなに思いつめないで』
若菜さんはそう言ってくれたけれど、俺はそうは思えなかった。
俺がもっと分かってあげていれば、違う結末があったかもしれないのに。
そればかりが、心を埋め尽くした。
そんな心を抱えたまま、突然命じられた新宿店への異動。
いろいろ噂を耳にしながら、実際はどんな雰囲気の店なのかを見てみたくて、数度こっそりと様子を見に行った。
立地にしては売上の高くない店、その情報通りスタッフたちにはいまいち真剣さや丁寧さが欠けていた。
そんな中でも、ひとり目に留まったのが彼女、千川だった。
最初の印象は、随分と背の高い女性がいる、といったもの。
『いらっしゃいませ』
けれど、そう穏やかな声と柔らかな笑みで他のお客様を出迎える彼女は、とても綺麗で一瞬で心が惹かれた。
赴任前日、たまたま電車で見かけた痴漢に遭う彼女を助けることに、迷いはなかった。
『す、すみません……今になって、力が抜けてしまって』
必死に平気なフリをしようとする彼女は、微かに声を震わせていて、きっと怖かったのだろうと感じられた。