今からもう、5年ほど前になってしまうだろうか。
札幌店で店長として働き、1年足らずの頃、ひとりのスタッフを失った。
杉本という俺より4つ年下の彼女は、スタッフの中でも明るい、よく笑う人だった。
接客が上手く、人のサポートも上手い。お客様の心を掴むのも得意で、彼女が喋るとよく店内に大きな笑い声が響いていた。
そんな彼女には、密かに気にしていることがあるのだと知ったのは、他のスタッフたちの何気ない言葉からだった。
『杉本ー、お前この前一緒にいた男彼氏?』
『あはは、違いますよ。友達です』
『だよなぁ。お前のその顔で彼氏とかないわー』
笑いながら発せられたその言葉に、『それは言い過ぎじゃないのか』と注意をしようかとも思った。
けれど、言われた本人である彼女自身はいたって普通に笑っていて。
『ひどーい、私だって彼氏のひとりやふたりや3人くらいいますよ〜』
『って3人はいすぎだろ!』
なんてふざけるように返していたから、俺の気にしすぎなのかと、思った。
同じく気にかけていた若菜さんが気遣い言葉をかけても、彼女は『大丈夫ですよ』としか答えない。