「仁科さん……ありがとう、ございました」
その言葉を遮るように私は、彼へ深い角度で礼をした。
「私は仁科さんのおかげで強くなれました。こんな自分でも恋をして、誰かを好きになれる自分を好きになってあげたいって、思えるようになりました」
例えその言葉たちが、あなたが過去に、彼女にあげたいと願っていたものだったとしても。
この心が、それに支えられたのだけは事実だから。
人ひとりの心を変えられる力を持っている。
そんなあなたは、もう自分を責めなくていいんだよ。
救わなくちゃ、なんて思わなくていい。
私はもう、大丈夫だから。
ひとりで前を、向けるから。
「だから、もう大丈夫です」
頭をあげて、えへへ、と笑ってみせた。
「じゃあ皆も待ってますし、急いで戻りますね」
「千川……」
仁科さんが呼びかけた声に、聞こえないフリで無視をして歩き出す。
追いつかれてしまわないようにと足早に歩くけれど、その一方で彼は追いかけて引き留めたりはしないだろうとも思う。
だって、そうする理由がないから。