『俺が、お前を変えてみせる』
彼がくれた言葉が、嬉しかった。
だけどそれは、私に向けられたものじゃない。
その心に残っている、彼女へ向けられたものだった。
現実に、ため息ひとつ出てこない。呆然とするしか出来ず、徐々に小さく震えだす膝からは今にも力が抜けてしまいそうだ。
「……千川」
すると、不意に背後から呼ばれた名前。
その声ひとつでそこにいるのが誰なのかが想像ついてしまう。だからこそ振り向きたくない、と思う体を、ゆっくりと後ろへ向けた。
そこにいたのはやはり仁科さんで、彼は先ほどより少しこわばった顔で私を見る。
「仁科さん、先に戻ったはずじゃ……?」
「あぁ。戻ったら藤井たちから、千川が追いかけて行ったって聞いてな。すぐ戻ってきた」
すぐ、戻ってきた……。ということは、私が杉本さんの話を聞いていたところを、見られていた。
穏やかではないその顔つきから、『かもしれない』ではなく、断定的に言い切れた。
「……千川、さっきの彼女の話だが」
続けて彼が発する言葉に、想像するのは突きつけられる現実。
大丈夫、わかってる。わかってるから。
それ以上は、言わないでほしい。
『彼女とお前が似ていたから』、『だから気にかけていた』
なんて言われたら、あなたからもらった言葉や気持ち、全てが崩れてしまう気がするから。