「あら、気になる?あ、もしかして仁科くんのこと……」
「え!?いや、そうじゃなくて……その、店長として慕っているので!少しでも近づけたらとか……」
慌てて言い繕うものの、言い訳がましくなってしまったかもしれない。
そんな言い訳を信じているのかいないのか、若菜さんは「くす」と笑う。
「微笑ましいわね。でもそっか、あの仁科くんがそこまで慕われるようになったんだ。嬉しいなぁ」
人が行き交う道の真ん中で足を止める私たちを、周囲の人はなんてことない様子で避けていく。
「杉本さんっていうのは、5年くらい前に札幌店で働いてたスタッフなの」
「スタッフ……?」
「まだ20歳くらいだったかな。おっとりして愛嬌がある子でね、けど本人は顔にコンプレックスを抱いてたみたいで」
顔に、コンプレックス……?
「周囲はそれをからかって、彼女は笑って流してた。そんな彼女のことを私も気にはなっていたんだけど、それ以上に当時店長になって間もない仁科くんが気にかけてたの」
「仁科さんが……」
「無愛想だけど、優しい人だから。だけど、なにを聞いてもすぐ『大丈夫』で流されちゃって、それ以上なにも言えなかった」