杉本、さん……?
って、誰だろう。
聞きたい、けど、聞いてはいけない気がする。
自分がその名を聞いていたことも知られてはいけない気がして、信号が青色になるとともに別れたふたりに、咄嗟に私は近くのビルの物陰に姿を隠した。
そしてお店の方向へ戻る仁科さんが、私に気づくことなく通り過ぎて行ったことを確認すると、また信号が変わってしまう前にと急いで彼女を追いかける。
「わっ、若菜さん!」
「え?あら、さっきの……」
若菜さんは私を見ると不思議そうに首をかしげた。
「あの、紙袋にお財布が入ってて」
「お財布?あっ!あらやだ、てっきりバッグに入れたつもりだった!」
全く気づいていなかったのだろう。彼女は自分のハンドバッグの中身を確認してないことに気づくと、私からお財布を受け取り恥ずかしそうに苦笑いをこぼす。
「ごめんね〜。助かったわ、ありがとう」
「いえ、間に合ってよかったです」
笑顔で返すけれど、心の中は先ほどのふたりの光景でいっぱいだ。