「ありがとう。今日は俺はこのあと倉庫で作業してるから、なにかあったら呼んでくれ」
「わかりました」
そう言いながら体の向きを変え、給湯室を出ようとして一瞬足を止める。
「……あと」
「はい?」
「その色、よく似合ってるな」
背中を向けられたまま言われるそのひと言に、一瞬驚き、喜びかけて、またからかわれてるのかもと気付く。
「そ……それも、冗談ですか?」
けれど問いかけに仁科さんは答えることはなく、そのまま歩き出す。
微かに見えたその横顔に浮かべられた笑みは『どっちだろうな』と言いたげで、結局のところどちらなのかは私にはわからないまま。
……けど、『冗談なんかじゃない』と言っているように感じられてしまうのはきっと、私の思い込みなんだろうな。
そうだったらいいのにな、なんて。欲張りな期待が、膨らんでいく。