「あっ、おはようございます」

「コーヒー、俺の分も頼んでいいか」

「はい。ブラックでよかったですか?」



彼の分もカップを手に取りたずねる私に、彼は「あぁ」と短い返事をしながら、なにかに気づいたようにじっとこちらを見る。



もしかして……気づいて、くれた?

ほんの少し、胸は期待する。



「なんだ、今日はやけに唇の血色がいいな」



……が。彼が真顔で言うのは、なんとも色気のない言い方で。



「リップです!色付きのリップ!」



血色って……どんな言い方ですか!

口を尖らせ怒ると、仁科さんはふっと笑う。



「冗談だ。リップだってことくらい分かる」

「……仁科さんって冗談言えるんですね」

「お前は俺をなんだと思ってる」



か、からかわれた……。

リップを塗っていると分かった上で血色が、なんて言い方をするなんて。

からかわれたことははずかしいけれど、彼もこんなふうにからかったりするんだ、と意外に感じる。



淹れ終えたコーヒーを手渡すと、仁科さんは一歩近づいてカップを受け取った。