「お、おはようございまーす……」
買ったリップをすぐ塗って出勤すると、もうすぐ開店時間を迎えようとしている店内では、藤井さんと梅田さんが開店準備をしていた。
「おう、おはよー千川」
「おはようございまぁーす」
ふたりはこちらを見たものの、全く気づくことなく仕事を続ける。
だよね、気づかないよね……。
ひとりでちょっと緊張していて、自意識過剰だ。
まぁ、どうしたのかと冷やかされたりするのも恥ずかしいし、いっか。
そう考えながら裏へ行き、スタッフルームへと入る。
そしてコートを脱ぎ、荷物を置いて……自分の始業時刻まではまだ少し時間があることから、廊下を挟んだ向かいにある給湯室でコーヒーを淹れようとカップを取り出した。
「千川、おはよう」
すると、聞こえたその声に胸がドキッと跳ねた。
振り返り見ればその声の方向、給湯室の入り口に立つのは想像通り仁科さんで、彼は私の手元のカップへ目を留める。