……ところが。
「はぁ〜……」
時刻は閉店30分前。がらんとした静かな店内には私の深いため息だけが響く。
朝からこの時間まで、今日はひたすら暇だ。
さらにせっかく暇なのだからと仁科さんからの接客指導が何時間にもわたって行われ……販売はしていないのに、それ以上の疲労感で、もうすぐの閉店時刻を迎えようとしていた。
この時間に来るお客様は滅多にいないし……あと30分、コーヒーでも飲んでちょっとゆっくりしちゃおうかなぁ。
「千川」
そう考えていたところで、同じく遅番の仁科さんに呼ばれ振り向く。するとその手にはカップがふたつ持たれていた。
「コーヒー淹れたんだが、飲むか?」
「わ、いいんですか?ちょうど飲もうかなって思ってたんです」
心を読んだかのようなタイミングでカップをひとつ差し出す彼に、私はそれを受け取った。
ほのかに茶色いそのコーヒーにはすでにミルクと砂糖が入れてあることを察し、小さく口をつける。
「今日は一日中暇でしたね」
「あぁ。週の真ん中だしこの寒さだしな。俺なら絶対家から出ない」
「あはは、たしかに。毛布にくるまったまま動けなくなっちゃいそうです」