シャワーを浴び、滲んだ汗と嫌な気持ちを流すといつものように身支度をして家を出た。
今朝は一段と冷え込む街を歩きながら、マフラーで口元を隠す。
うぅ、今日は寒いなぁ……この冬一番の寒さかもしれない。
一応お腹にホッカイロは貼ってきたけど……あのお店、倉庫や裏側はすごく寒いんだよね。
雪が降りそうな曇り空を見上げ、白い息を吐き出しながら歩くうちに職場へと着く。
そして裏口からお店へ入ると、やってきたスタッフルームには深い紺色のスーツを着た、背の高い後ろ姿がある。
……仁科さんだ。
「おはようございます、仁科さん」
「ん?あぁ、千川。おはよう」
声をかけると振り向くのは、メガネをかけ、今日も変わらず無愛想な仁科さん。
彼は立ったままバインダーを広げ目を通していたようで、挨拶を返すとまた手元へ視線を戻す。
バインダーに目を通すなら座ればいいのに……。
そう思いながらコートを脱ぎつつよく見れば、彼の目の前にはスタッフルームを温める小型のヒーターが置かれていることに気づく。