「そんなこともあったかもな」


「覚えてない?」


「なんとなくは覚えてる」


「あたしは……うれしかったんだけどな」


「なんで?」


「もしかしたらあたしの勘ちがいかもしれないけど、あのとき、日向くんさ……」


そう言いかけると、日向くんはあたしの言葉を待たずに謝った。


「……あのときはごめんな」


日向くんの突然の謝罪に思わず瞬きを繰り返す。


「もっと早くアイツらとめればよかった」


「そんなことないよ。日向くんのおかげで助かったよ」


「いや、でも」


「でもさ、日向くん、覚えてないって嘘ついたでしょ?」


かぶせるように言うと、日向くんは困ったように「わりぃ」とまた謝った。


日向くんが謝る必要なんてないよ。


あたしを思って嘘をついてくれているって、ちゃんとわかっているから。


日向くんは、いつも人より先回りして物事を考えている気がする。


そこまで気遣いできる人に出会ったのは、日向くんが初めてだ。