看護師さんが、母さんが目を覚ましたと知らせてくれた。
体を起こし、カーテンを開けるとうっすら開いた目が僕をうつす。
「大丈夫?」
そう言って手を握る。
力が入らないのか、全く握り返してこなかった。
もうダメだと嫌でも悟る。
そして、少し笑って小さな声で
ゆうき そら
って、名を呼ぶ。
あぁ、思い出した。
それが僕の名前だ。
「勇気を持って、空のように広い心で、誰にでも優しく、強く、生きるのよ。」
僕の名前の由来。
「ごめんね、母さん。僕は、勇気を持っていないんだ。」
僕は母さんの望んだ、ゆうきそらではない。
「でも、空になって見せるよ。見ててね、母さん。」
母さんは、そら、そら、って僕の名前を何度も呼んだ。
それに僕は、うん、うん、って返事をする。
段々声が聞こえなくなってきた。
お願いだ。
その目を、閉じないでくれ。
その声よ、消えないでくれ。
涼しい風が吹いた。
それに、秋の訪れを感じる。
「おやすみ。」
お母さんは、永遠の眠りについた。