【君の存在】

~side遼太郎~


慧さんが泣いている。
俺が泣かせたのか…心配させたから…



「日向さん?どうしたの!?」

その声の主はライバルである遠藤康太だった。

「この人達は誰だ?お前が殴ったのか?
 そんなことより日向さんを泣かせたんだな。
 好きなこ一人守れないやつに日向さんは渡さない。」

そう言うと、遠藤は慧さんの手を取ろうとした。

「触るな。」

「は?」

確かに今の俺にそんなこと言う資格はないかもしれない。
分かってはいたが、口が勝手に動いていた。

「お前は日向さんを泣かせるような甲斐性なしだろ…
     そんなやつにまかしてなんかおけるもんか。」

「なにも知らないお前に言われる筋合いはない。
そんなくだらないことを言うだけならば消えてくれ。」

「だから、お前になんか任せては、」

「慧さん、俺の怪我なんか本当に大したことないし、
心配しなくても大丈夫だ。慧さんのせいでもないぞ。」

きっと慧さんは今、
自分を責め立てているんだろう。
優しい人であるが故に自分を傷付けてしまう。
だから安心させてやりたい。
君は悪くないんだって…。

「でも…私なんかをかばったせいで松坂くんが怪我
しちゃって…ひっくっ…本当にごめんなさい…」

やっぱりそうだ。

俺は改めて彼女の心の清らかさに気づく。
脆く、壊れやすい彼女。

俺は彼女を壊さないよう抱き締めた。

「慧さんのせいじゃない。
あなたがいてくれるから、あなたという存在が俺の支え
になってるんだ。だから私なんかなんて、言うな。」

ちらりと俺の顔をみると、
こくんと小さく頷き俺の胸に顔を埋める。
なんとか落ち着いてくれたようだ。


しかし!

こんなシリアスな展開になってしまったが、
俺の心臓はやたら鼓動が早くなり、
周りに聞こえるのでは?
というレベルで鳴り響いている。
確実に慧さんには聞こえているだろう。
冷静になると先程慧さんを落ち着けようと
言った言葉にやたら恥ずかしさが湧いてくる。
そして、この腕の中には、
慧さんがすっぽりと収まり、
少し震えながらTシャツの裾を掴んでいる。

(やばいぞこれは。この後どうしよう…)

とりあえず、慧さんの背中をぽんぽん叩く。
だが、恥ずかしさは込み上げてくるばかりだ。

しばらくして、慧さんは泣き止んだらしく、
真っ赤な顔をしながらおずおずと、
離れていく。よく考えれば、ここは外だ。
いくら田舎と言えども道端だ。

「帰ろうか。」

「うん!」

電車がくるまで1時間ほど。
ゆっくり帰ることにした。








「はぁ…あれじゃ無理だな。」

忘れられた遠藤康太はトボトボと歩き始めた。