【松坂くんの奮闘】


あぁもう終わりだと諦めかけたその時、

バスッ、

「うぇ,?ぎゃあああぁぁぁぁ!!!」

剃り込みの悲鳴がけたたましく鳴り響いた。

目を向ければ顔が能面のように引きついた、
今までとは比べ物にならないくらい静かで確かな、
怒りのオーラを身に纏った松坂くんが剃り込みの
右手を鷲巣かみにして、関節技を決め込んでいる。

剃り込みの腕は奇妙な角度にねじ曲がり、顔は
真っ赤になっていて、今にも泣きそうな顔になっている。

「松坂くん?」

「俺の慧さんを傷つけるなんて許さない…」

ぼそりとつぶやくと、あまりの痛みに耐えられなかった
剃り込みが泡を吹きながら地面に倒れた。

「てめぇ!!!許さねぇ!」

金属バットを振り回しこちらに走ってくる不良②、
ガードレールに飛び乗り、不良②に豪快な回し蹴りを
くらわす。

「がはっ…」

部様な姿勢で地面に伏せる。

「この!!!」

一気に二人、三人が向かってくる、流石に危機的な状況。

一人を片付け、二人目に向かおうとする松坂くんの
後ろから先程の金属バットを持ち直した不良③

(は?あの松坂くんに危害を与えるつもり?
ふざけている、そんなの絶対……許さない。)


考えきるよりも早く、からだが動いていた。
背中に背負った教科書やら、制服が入ったリュックを
奴の顔めがけて振り回す。

ゴスッ!!

鈍い音と衝撃の後、不良は横に流れる川にダイブした。

「はぁ…はっ…ふぅ」

辺りは静まりかえっている。
聞こえるのは、松坂くんの呼吸の音くらいだ。

「危なかった、慧さんありがと…
    ていうかごめん。守りきれなくて…」

松坂くんは、下を向き申し訳なさそうに項垂れていた。

「なんで?私、剃り込みが殴りかかってきたとき、
これは死んじゃうかもって思ってたけど、松坂くんが
助けてくれたから…全然平気だから。」

「そっか…こちらこそありがとう。
  あっそれより!どっか怪我してないか!?」

「うん!全然大丈夫!」

私の心配をしてくれたが、どう考えても怪我してるのは
松坂くんのほうだ。私なんかをかばったせいで怪我を
させてしまうなんて、あまりにも申し訳なさすぎる。
顔に傷をつけてしまうなんて、なんていうことを
してしまったんだろう…自責の念にかられてしまう。


「松坂くん、ほっぺた怪我してる…
           私のせいで…ごめんなさい。」

ついつい涙が溢れてしまう。
泣いちゃだめだ、痛いのは私じゃない。