「好きなんでしょ?黒瀬のこと」
そう言われて、胸がドキンとなる。
バカ。
「ごめんなさい。マコトくん。マコトくんと付き合ってるのに…私…」
頭の中は常に黒瀬のことばっかりで。
マコトくんはそれに気付いていた。
「仕方ないよ。ただ、俺から莉子ちゃんを振るなんて、そんな優しいことしないからね?」
「え…」
「振られると思った?」
クルッとこっちを振り返って、無理やり作ったかのような笑顔でそういうマコトくん。
「最後はちゃんと、莉子ちゃんが悪者になってよ」
「悪者…」
「ちゃんと自分の気持ち口に出して、俺のこと振ってよ。じゃなきゃ別れないよ」
これもマコトくんの優しさだ。
わざとそういうこと言うんだもん。
「…本当にごめんね、マコトくん」
「ううん。楽しかったよ。不安になった気持ちとかそういうの全部含めて、楽しかった」
どうして、私はこんないい人を傷つけるんだろう。
それでも、考えてることは彼のことじゃないから。
ずっと前からきっとわかってた。
「…ごめんなさい。私…」
でも、信じたくなかった。
あんな冷たくて地味な男。
好きになるなんてありえないって。
「…私…他に好きな人がいる」
私がそういうと、マコトくんは私から目をそらしたまま、一筋の涙を流した。
「…ごめんっ。だせぇな。女に振られて泣くとか」
「マコトくんの優しさとか愛情とか…本当にたくさんもらったのに。感じたのに…。こんな形で…」
「仕方ないよ」
「本当に…ごめんなさい」
「うん」
「本当に…ありがとう」
何を言っても、マコトくんを傷つけたことは変わらない。
でも、本当に出会ってよかったから。
「絶対、幸せになってください」
マコトくんは無邪気な笑顔でそういうと、私のおでこに優しくキスをした。