「理央の手で、俺を描いてくれてありがとう。ここからいなくなっても、俺がこの高校に通ってたってこと、この絵が残しといてくれるって思ったら、なんか安心した」
彼は絵から顔をあげると、言葉を失う私を見て、明るく笑った。
一度見たら忘れられないような、胸が締め付けられるほど切なくて、可愛い笑顔。
「すげー嬉しい。ありがと、理央」
ーーガタン。
私は気づけば、席を立っていた。
突然の私の行動に、颯が驚いた顔をして見上げてくる。先輩までもが、筆を持ったまま振り返っていた。
だけど今の私には、そんなことを気にする余裕もなくて。
颯の笑顔を見た瞬間、またあの衝動が、私の中を駆け抜けたから。
それに突き動かされるように、静かな美術室のはしっこで、私は口を開いた。
「…………私に、颯を描かせて」
一度きりじゃ、足りない。
まだ、描きたい。
颯を。
世界のまんなかで笑う、颯を。颯がいる風景を。