颯とはもう、関わることはないと思っていた。だけど彼は今日も美術室にいる。
それが嫌なんじゃない。むしろ嬉しい。
ただ、不思議だった。颯はどうして私にかまい続けるのだろうと。
その疑問を言葉にしようとするけど、口下手な私では上手く言えない気がして、躊躇う。そもそも、わざわざこんなことを尋ねるのも、おかしい気がした。
結局私が口にしたのは、「昨日の」だった。
「昨日の……海を、絵に、描いたの」
颯の目が見開かれる。
引かれないだろうかと不安になったけど、颯の目は輝いていて、『見たい』という気持ちが伝わってきた。
私は絵を入れているケースから、A3サイズの画用紙を取り出して、おずおずと彼に手渡した。
颯はそれを見た瞬間、さらに目を見開かせる。彼の口から、ゆっくりと息を吐き出すような声が漏れた。
「………俺だ……………」
今、颯の目には、私が描いた颯が映っている。
そのことを意識すると、途端に恥ずかしくなった。颯は食い入るように、絵を見つめている。
私の目に、颯はこうやって映っているのだと。
知られるのが、恥ずかしかった。