あのとき見た光景は、強く強く私の目に焼きついていて、今も離れない。
覚えている限りに細かく、感じたものを素直に。
下描きを終わらせると、息もつかずに着色に移った。展覧会の日から私の心にのしかかっていた塗り方の問題なんて、少しも考えずに絵の具を選ぶ。
赤、青、黄色。
この三色を迷いなくパレットに出した。
それぞれを軽く混ぜて、絵全体にサッと塗っていく。
夜の黒い空、黒い海、黒い学ラン、颯の黒い髪。
だけどきっとあのときの黒は、いろんな色を持った黒だった。その中に赤も青も黄色も緑も、ぜんぶ内包していた。
やわらかく、やさしく、それでいて深く。
下地の色達が薄く透ける程度に、藍色を被せていく。
塗っている間、私の手は一度も止まらなかった。
久しぶりにわくわくした。楽しかった。