「……だから理央は、俺に『上手い』って言われても、嬉しそうな顔しないんだな」
颯が落ち着いた声色で言った。
涙がこぼれそうになるのを必死にこらえて彼の方を向くと、少しうつむいて海を見つめる、颯の姿が見えた。
「………嬉しくないわけじゃないよ。ただ、手放しに喜べないだけで……今まで、ごめん」
「謝んなくていいよ。理央が本当に真剣に、絵のこと考えてるんだなってわかるから……話してくれて、ありがと」
ふと顔を上げて、颯が私に笑いかける。
いつものような明るい笑顔じゃない。つらそうに眉を寄せて、彼は微笑む。
……馬鹿だな。ちっぽけな私のちっぽけな悩みを、颯はこんなに真剣に聞いてくれる。
本当に彼は人がいい。羨ましいほど純真な心を持った、透明な男の子。
「理央は、本当に絵が好きなんだな」
颯がおもむろに立ち上がった。ザク、と彼のスニーカーが砂を踏む。
私は膝を抱えて座ったまま、うつむいた。