デッサンの狂いがないよう、何度も何度も見て描いた。


あの駄菓子屋の和やかな雰囲気が伝わるよう、試行錯誤を繰り返して。



「一生懸命描いた。そのときの私ができるぜんぶの技術を使ったと思う。一ミリも妥協したくなかったから、いっぱいいっぱい考えた」



颯は私の話を、前を向いたまま黙って聞いてくれていた。


どうして私は今、彼にこの話をしているのだろう。


頭の片隅で思う。


私は『橋倉颯』という人物が、苦手だったはずだ。弱味なんか見せたくなかった。



だけど、私は気づいてしまった。


すべては私が、すんなりとこの話ができるように。彼が時間をかけて、私が彼に気を許せるようにしてくれたこと。



……なんだもう、絆されているじゃないか。



眞子にすら話したことがないのに、私は口を動かしている。


きっと颯は、彼なりに真正面から私に向き合って、この話を聞いてくれるだろうと思ったから。