「理央の絵って、やさしいじゃん。雰囲気とか、あったかいっていうかさ」



……確かに絵だけ見れば、そう感じるかもしれない。


私の風景画は、暖色の水彩絵の具を多用する。淡く、ふわりと、やさしい印象に仕上げる。



そして、私が何よりこだわるのが、『必ず人物がいる風景を描くこと』だ。



人々がそれぞれに一生懸命生きている、忙しない街中とか。穏やかで少し寂しい商店街とか、制服姿の学生が笑いあう校内とか。


人がそこで生きて、暮らしている風景を描きたい。


この絵の中へ入りたいと思ってしまうような、そんな風景を残したい。


だから、そこにある人の暖かみを表現するために、そういう塗り方をしている。


でも、それだけだ。


これは私の好みであって、私自身がやさしいわけじゃない。



「………それは、あくまで絵のはなしでしょ」

「でも、理央にはこの世界がああいう風に見えてるってことでしょ。俺にはなんてことないように見える風景も、理央にはあんなにやさしく見えてる。俺はすごいと思うよ」



颯の目には、迷いがない。

こんなことを言われたのは初めてで、驚いた。そんな風にも思えるのか。