そんな表情、簡単に向けないでほしい。


絆されてしまいそうになる。

心を許してしまいたくなる。


そうしたら私は、身に染みて実感することになるんだ。



人の心をこんなにも容易く、動かしてしまう人がいることを。



苦しくなって、だけどその苦しさに負けないように、ぎゅっと手のひらを握りしめた。



「………笑えないよ。そんなにたくさん、笑えない。私、颯みたいに明るくないもん」



暗いし。ひねくれてるし。その場の空気に合わせて、無理やり笑ったりするのも苦手。


必要なときは頑張って笑うけど、私には颯くらい自然な笑顔をつくることはできない。


颯は学ランに袖を通しながら、まっすぐに私を見つめた。そして、また真剣な顔で口を開く。



「………そーかな。理央の絵見てたら、理央が暗い人間だとは思わないけど」



ザク、ザク、と音を立てながら、颯が砂浜を踏みしめて私の横を歩く。


少しうしろの方で立ち止まると、彼は海を向いてそのままそこに座りこんだ。