「なにしてんの。寒いでしょ、学ラン返すよ」
くすくす笑いながら学ランを手渡すと、颯はポカンとした顔で私を見た。
「……な、なに」
「笑った!」
目の前で大きな声を出されて、びくりとする。颯は嬉しそうに表情を輝かせて、「理央、はじめて笑った」と言った。
「え、あ………」
そうか、颯の前でははじめてだったのか。そうでなくとも普段から私は、あまり笑わないけれど……。
私は今まで、颯の前では暗い表情ばかりしてきたから。
とたんに恥ずかしくなってうつむくと、颯は「なんで下向くの」と笑いながら言った。
「笑ってよ。笑ってた方が、絶対かわいー」
思わず力が抜けてしまいそうな、子供みたいな笑顔。
なんて、安心しきった顔をするんだろう。なんだかむず痒くなってくる。