「……えっ」

「寒いんでしょ。着ていーよ」

「で、でも、はし……颯は、寒くないの」

「俺は下に長袖着てるから」


彼が今着ているパーカーは、あまり厚手には見えない。


受けとるのを迷っていると、ムッとした顔で押し付けられた。機嫌を損ねても申し訳ないので、素直に羽織ることにした。


ああ、温かい。

颯の温度が残ってる。



「………ありがとう」

「ん」



颯はニカっと笑ってから、私に背を向けた。海の水を少しの間見つめて、おもむろに靴を脱ぎ始める。

彼の白い足が、ちゃぷ、と音を立てて水に浸かった。


「うお、冷てえ」

「……冷たいよ、まだ五月だもん」

「えー、知らねーよ。俺、海とか来んのはじめてだし……」


私が目を見開くと同時に、颯も「あ」という顔をした。


……はじめて……?