「………………」



時折、遠くで回る灯台の光が、海を照らす。

向こう岸の建物の淡い光が、色とりどりに伸びて、黒の海を彩っている。


橋倉くんの髪が、潮風にふわふわ揺れた。


私はそのうしろ姿を、目を細めて見つめていた。


彼がふいに振り返って、私を見つめる。目があって、どきりとした。橋倉くんの綺麗な瞳だけが、光と反射する。


その目は、濡れているようにも見えた。



「理央」



やわらかく、それでいて芯のある声が、空気を震わせた。



はじめて、呼ばれた。

彼に、名前を。



なのに、ちっとも違和感を感じなかった。


彼が私をそう呼ぶことは、なんだかすごく、すごく自然に思えた。