そう疑問を口にしようとして、彼を見る。けれどその瞬間、私は息を飲んだ。



………なんて、嬉しそうな顔をするの。



彼は見開いた瞳を輝かせて、惚けたように海を見つめていた。


口もとには微かな笑みが浮かんでいて、彼がどれだけこの海岸に来たかったのか、何も知らない私でもよくわかった。



「やっと、来れた…………」



少しだけ震えた声で、橋倉くんが呟く。そのあまりの感動ぶりに、こちらが戸惑った。


大した海岸じゃないのに。


どこにでもあるような、特に広くも綺麗でもない、普通の海岸なのに。


だというのに、どうしてそんなにまで喜べるのだろう。


思い出の地とか、そういうものなのだろうか。特に有名にもなっていないこの海岸に来たがる理由なんて、そのくらいしか浮かばない。


戸惑う私をよそに、彼は海を一心に見つめて、足を一歩前へ動かした。


その足はどんどん先へ進む。ジャリジャリと音を鳴らす砂浜を踏みしめていった。


そして、水が寄せては引いていく境に立ち止まると、橋倉くんは夜の海をまっすぐに見つめた。