彼とはつい数日前まで、知り合いですらなかったはずだ。彼からしたら、絵を通して私の存在を知っていたかもしれないけれど。
私にとっての橋倉くんは、明るくて人当たりが良くて、人望がある人気者だ。
だから、私とは違う人間だと思っていた。いや、今もそう思っている。
羨ましくて仕方がない。みんなの世界を動かすことができるひと。
濁りない透明な瞳で、他人の瞳を見つめられるひと。
「………………」
橋倉くんは、何を考えているんだろう。どうして私と海へ行きたいなんて言ったんだろう。
私が落ち込んでいたからだろうか。
気を遣って、気分転換に誘ってくれた?
もしそうだとしたら、優しいひとだな。
「……橋倉くん」
彼の身体に回した腕を少しだけ緩めて、顔を上げた。