返事を聞くと、橋倉くんは満足げにニッコリ笑って、私から離れた。
「ありがと。じゃあ、行こ?」
「ま、待って。ここ片付けなきゃ」
「わかってる。待ってるから」
私がパレットをたたんで、絵の具やら筆やらを片付け始めると、橋倉くんもバケツの水を捨てに行ってくれた。
急いで五分ほどで片付け終えて、美術室を出たとき、ひとつ不安が頭をよぎった。
「……海って、学校からいちばん近いとこだよね?今から歩いて行っても、時間かかるんじゃ……」
高校がある街は、山と海に挟まれている。
その中間辺りにこの高校は位置していて、ここからまっすぐ下っていけば、海岸にたどり着くのだ。
私の家があるのは隣街だから、私は電車通で、自転車は持ってない。
歩いて行くと、海岸へは三十分以上かかる。
今は午後六時前。今から行ったら、たどり着くのは七時前になってしまう。
だけど橋倉くんはあっけらかんとした顔で、「そーだね」なんて言った。