「………ありがと」
私はロッカーの前に座り込んだまま、小さく言葉を返した。
席に戻って、パレットの上に絵の具を出す。橋倉くんは頬杖をついて、私の手元をじっと見ていた。
私が筆をとって塗り始めると、 彼はまた黙ってそれを見つめ始めた。
はじめに適当に暖色、寒色の色を薄く入れて、そこから濃くしていく。
こうやって色を重ねていく作業が、水彩絵の具の魅力だと思う。
どれだけ重ねても、前に塗った色は必ず残って、意味を生む。何度も何度も重ねることで、深みが出る。
私はこの淡く、深い水彩絵の具の味わいが大好きだった。
ーーだけど。
「………………」
塗り始めて三十分後、私は筆を持つ手を止めた。
唇を噛んで、目の前の絵を見つめる。