適当に大体のアタリをつけて、描き始める。
最初に手をつけたのはリンゴだった。
詳しく描き込まずに、輪郭だけをとる。次にぶどう、次に花……と手前から描き進めていく。
サ、サ、という鉛筆の音だけが、広い空間に響いた。
やがて下描きが終わる。あくまで息抜きだからあまりきっちり描いてはいないけれど、こんなものだろうという妥協点には達した。
モチーフたちと見比べて、それから鉛筆を置く。
時計を見ると、夕方の五時を少し過ぎたところだった。下絵にかけたのは三十分くらいか。
「お、できたの?」
「下絵だけね。今から色塗る」
壁際にある小さなロッカーたちは、美術部員のためのものだ。
自分のところを開けて、水彩絵の具を取り出す。あとはパレットと、筆と……バケツは美術室のやつを使おう。
橋倉くんはイーゼルを見て、「おー、うめえ」と声をあげていた。