「じゃあ、今日はこれ描くんだ」
「うん。……来てくれたのに、ごめん」
「気にしなくていいよ。俺が無理言って来たんだし。中野さんが描きたいもの、描いて」
「……うん。ありがと」
『描きたいもの』か。
描きたいのかな、私。静物画。
……わかんないな。
風景から逃げるために、静物を描こうとしているだけだ。そんな理由で描いたって、きっといいものなんかできない。
わかってる、けど。
「…………………」
配置を決めて席につくと、私は鉛筆を持った。イーゼルに置いてある紙と机の上のモチーフたちを見比べた。
私が鉛筆を紙の上に走らせ始めると、橋倉くんは口を閉じた。
邪魔をしないと言っていた通り、私が描いている間は喋らないつもりみたいだ。
そんな風に真剣な目で見られているのも、落ち着かないんだけれど。