「ごめん、今日は静物を描くね」
呟くようにそう言って、近くの棚へ向かう。橋倉くんは首を傾げて聞き返してきた。
「せいぶつ?えーと、生き物?」
「ううん。静かな物って書いて静物」
「なにそれ」
「んー……動かないもの?っていうのかな。そういうのを机に適当に置いて、それを描くの」
こんなの、と言って、棚からリンゴのモチーフを取り出して見せた。
「え、本物のリンゴ?」
「偽物。すごく軽い」
「へー」
それから適当にぶどうや花を取り出して、横の棚から大きさの違う瓶を二本取り出した。
机に戻って、それらを適当に置いていく。
橋倉くんは、「すげー、本物みたい」と言いながら、興味深そうにモチーフを眺めていた。