「すげー」



何がすごいのかわからないけれど、橋倉くんはあちこちを見てはそう言った。


なんだか不思議だ。

あの橋倉くんと、美術室でふたりきりなんて。



先輩とふたりで使うには、少し広すぎる空間。

まして今日のように先輩もいなくて、こんなところにひとりでいる時は、やっぱり少し寂しくなる。


橋倉くんは、いるだけでその場を明るくしてくれる気がした。




「他の部員、みんな幽霊なの?」



室内をさんざん見て落ち着いたのか、やがて橋倉くんは私が荷物を置いている机の近くの椅子に座った。


「ううん。いつも先輩がもうひとりいる」

「ふーん。その先輩は、今日休みなの?」

「さあ。わかんない」


角からイーゼルをひとつ取って、持ち上げる。私の簡潔な答えに、橋倉くんは苦笑いした。