「見たらやさしい気持ちになれるのは、中野さんの絵の魅力だけど………珍しいね。あんなに人物が目立ってる絵を描くなんて」
「確かにねぇ」
先輩の言葉に、ふんふんと先生も頷く。
彼の言う通り、あの絵は風景を主体にして描いたものではない。私にしては珍しい、人物画だ。
私は「それは……」と言いながら顔を下にした。
新しい試みです、なんて言おうとしたけれど、やっぱりやめた。
あの絵は、大切な『一枚目』だから。
「彼は……私の世界の、まんなかにいる人なので。あの絵の主役なんです」
だから、人物を中心にして描いてみた。
新しい試みといえばその通りなのだけれど、そう言うにはあまりに私は、あの絵に心を込めすぎている。
私の言葉に、先輩と先生がポカンと呆けた。
我ながら恥ずかしいことを言った自覚はあったので、途端にこの場から逃げ出したくなった。
少しの間美術室を支配した沈黙を破ったのは、湯浅先生だった。