ふいにまた、風が吹いた。
瞬きをして、次に目を開けたとき、景色は変わっていた。
そこには、成長した颯の姿があった。
きっと中学三年生くらい。
彼は机に向かって、なにか書き物をしていた。
机の上にあったのは筆記用具と、新品らしき数枚の便箋。それから、その隣に何か既に書かれた便箋が置かれていた。
彼は新品の便箋とそうじゃない便箋とを交互に見ながら、懸命にそこに文字を連ねていく。
……ああ、私との文通だ。
彼は毎回、こんな風に悩みながら、私に返事を書いていたのか。
そういえば颯は国語が苦手だったなと、ぼんやり思い出した。
たとえ手紙でも、文章を書くのはすごく大変だっただろう。
だけど彼にとって私との手紙は、外の世界との唯一の繋がりだった。
きっと、彼から書ける話題は少ない。だから私が書いたくだらない話題にも、その度に彼はちゃんと返事を書いてくれた。
真剣な顔をして机に向かうその姿を、私は目の奥に焼き付ける。