私は、彼の寝顔を見つめていた。
本当に、もう二度と目覚めないんじゃないかと思えるほど、やさしい顔で彼は眠っていた。
そうしたら窓から勢いよく風が入り込んできた。
長い髪が揺れる。思わず目を閉じて、もう一度開けた瞬間、目を閉じた颯はそこにいなかった。
ベッドの上にいたのは、中学一年生の颯。彼は表情を無くした顔で、窓の外を眺めていた。
『颯!』
聞き覚えのある、なんてものじゃない。
数年前の自分が、私の横をするりと通り抜けて、颯のもとへ駆け寄っていった。
少女は今の私よりずっと表情豊かで、息を切らしながら赤い顔で『おはよう』と言った。
颯はそんな少女を見て、無くしていた笑顔を取り戻す。
『おはよ、理央』
その笑顔が、心から嬉しいと思っているから溢れたものだとわかって、胸が痛むのを感じた。
少女は手に持っていた小さな青い花束を花瓶に生けて、窓辺に置いた。